アジア太平洋地域や国内の自然保護プロジェクトを支援する事業


日本経団連自然保護基金/日本経団連自然保護協議会


KNCF NEWS 巻頭言 No.35

KNCF NEWS 巻頭言 No.35

自然への畏敬の念と循環型社会の形成


株式会社資生堂
取締役 会長
池田 守男

私たちは戦後60年にわたり、ひたむきに物質的な充足を追い求めてきた。その結果、経済は高成長を遂げ、GDPでは世界第2位までに至った。しかし、一人ひとりの暮らしや生活はどうだろうか。おしなべて標準化され規格化された社会の仕組みの中では、真の豊かさを享受できていないのではと思う。何かを手に入れたのは確かだが、物質面と精神面のバランスを大きく崩してしまった。大量生産、大量消費、大量廃棄を繰り返した結果、人間らしさや精神性を失い、何より自然や地球環境というかけがえのないものまで犠牲にしてしまっている。

いまから約30年前、ストックホルムでの国連人間環境会議の開催にさきがけ、「地球という天体は無限に消耗可能なものではないので、際限のない開発や大衆消費社会の進展は抑制すべきである」という強い警告が発せられた。人々は大きな衝撃をうけ、地球環境は世界の主要テーマに急浮上した。しかし、過剰な開発や経済成長を抑えるという考えはいっこうに浸透せず、世界中で環境破壊が繰り返された。

現在では、限られた資源を保全する必要性は誰もが認識している。しかし、その実行となると、地球温暖化対策がそうであるように、先進国の中でさえ京都議定書をめぐる意見は集約できない。また、その対応においても、いまだ規模の経済を優先するあまり遅々として進んでいない状況にある。では、何故このような状況にあるのだろうか……。それは、私たち人間が、いつの間にか傲慢になり、自然や地球との基本的なつながりを十分に認識できなくなったからだと思う。

そもそも、私たち人間は他の動物や植物・鉱物などと同じように、地球という物体のひとつの構成要素にすぎない。いまから約1万年前に、人間は、それまでの狩猟というライフスタイルから、農耕・牧畜のスタイルを選択した。地球という自然環境の中で資源やエネルギーを分けてもらう生活とは決別し、自らの意志で、地球の資源やエネルギーを消費し、不要なものを捨てるという生活習慣を持つようになった。以来、長い年月が経過する中で、人間は地球資源を消費し続けるにつれ、あたかも地球や自然を支配するかの錯覚を持つようになったのだ。

しかし、地球は人類だけのものではない。あらゆる動物や植物、そしてこの世界に存在する万物の共通資産なのである。したがって、私たち人間は、地球の中で存在できていることに心から感謝し、愛情と畏敬の念を持って地球や自然と接しなくてはならない。個人としても企業としても、20世紀後半の経済至上主義の痛烈な反省の上に立ち、「限られた地球資源の中で、どうしたら循環型の社会が構築できるか」という将来を見据えた課題を自らに問い、これに対する対策を全員で真剣に創り上げるときである。モノを大切にする心、自然への愛情と畏敬の念を全員が持つときだと思う。戦後60年の節目の今年こそ、こうした考えに立ち自然や地球環境問題に取り組む出発点にしたい。

私どもの化粧品業界の使命は、新しい価値の発見と美しい生活文化の創造を通じて、お客さまのお役に立ち、社会に貢献することである。それは、「天地万物のあらゆる資源を融合して新しい価値を創造する」という、当社の社名の由来である易経の一節、「至哉坤元(いたれるかなこんげん)、万物資生(ばんぶつとりてしょうず)」に通じるものである。

美しい生活文化の追求には、社会性や人間性の追求が欠かせないものであり、当社では1997年に「地球環境は重要なステークホルダーのひとつであり何ものにも優先して取り組む」ということを社会に宣言した。そして、他の企業と同様に、生産工場のゼロエミッション化、商品や包装資材の徹底した減容・減量化、お客さまや販売店のご協力のもと使用済み化粧品ガラスびんのリサイクルなど地球環境対策に取り組んできた。

最近では、トヨタ自動車株式会社の協力を得て、共同で植物由来プラスチックの化粧品容器への応用開発と利用を始めた。このような取り組みは、まだ始めたばかりであるが、環境対応の技術は、企業が独自で開発利用するより、各企業が共同で進めることで大きな効果につながるものと思う。今後、経団連参加企業のみならず経済界全体で、環境対応技術の開発と共有を進めることで、循環型の経済社会の実現を進めてまいりたい。

「CSR(企業の社会的責任)」が叫ばれる中、いまや環境問題、人権問題、企業倫理への取り組みなどは、各企業とも経営課題の中心に据えていると思う。しかし、今後の地球環境問題への対応とは、従来の延長線上のものではない。それは、「限られた地球資源の保全を前提としてビジネスモデルを再設計する」くらいの気構えで取り組むべきものであり、21世紀初頭に私ども企業に突きつけられた大命題だと思う。右肩上がりの経済が終焉し、少子高齢化が進み人口減少社会を迎える今日、むしろこのような社会構造の大変革を好機ととらえ、この大命題に正面から取り組んでいくべきだと思う。


地球はこの世界に存在する万物の共通資産。
オオワシの写真提供:BirdLife-Asia。

そして、私たち一人ひとりに求められることは、人間は地球の中で生かされているという認識を持ち、地球や自然への畏敬の念と謙虚さを持つことに他ならない。私たち一人ひとりが、モノを大切にする心、他者を尊ぶ心を持ち合わせ、人間のみならず自然との関係性を心温かなものとする努力を払うことが重要である。こうした一人ひとりの活動の積み重ねが、人間が自然と一体となって存在する第一歩であると思ってやまない。人間の世紀における新たな循環型社会の形成に向け、ともに努力してまいりたい。