アジア太平洋地域や国内の自然保護プロジェクトを支援する事業


日本経団連自然保護基金/日本経団連自然保護協議会


KNCF NEWS 巻頭言 No.36

KNCF NEWS 巻頭言 No.36

持続可能な発展とは


トヨタ自動車株式会社
技監
渡邉 浩之
■ アフリカ・サバンナ

アフリカ・ケニアの大地溝帯、ナクル国立公園。夕焼けに赤く染まる空をバックにサバンナの樹木が黒いシルエットで空と地を分ける。そのパノラマの横に広がる境界線に、沼からねぐらに帰るバッファローの長い列。総勢数百頭はいるだろうか、よく見れば子供も大勢いる。この光景を経験された方のほとんどが、すっかりケニア・ファンになってしまう。何か我々の命の原点に巡り会えたというような感慨に起因するのであろう。私もそうである。

さて、生まれながらにして雁行のフォーメーションを組む雁の習性を、スイスの心理学者ユングは、先験記憶という概念で説明している。また法相宗唯識では、あやすと微笑む赤子の反応を本来人間に蓄えられているものとし、八識(阿頼耶識)としている。筑波大学の村上和雄先生の話は大変説得力がある。「我々の遺伝子は生物の歴史、40億年の蓄積の結果であり、あなたが存在するのは、あなたのご先祖様の40億年すべてが100%完全だったからだ」。面白いことに、西欧分析心理学、仏教、そして現代の最先端DNA研究は我々に大切なある一つのことを教えてくれる。すなわち、我々はこの地球という生命体に生かされているのであり、生物としての大命題は「命を継ぐ」ということになるのであろう。つまり「持続性」である。その持続性を確保するための情報が生体内に遺伝子として薫習されているのである。この作用は多大な年月と幾度となく繰り返させられた淘汰の結果であり、それが優れたものであるからこそ、今地球の多種多様な生命が調和し、存在する。

■ 世界遺産白川村とトヨタ白川郷自然学校

今年で世界遺産10周年を迎えた白川村では、世界から学者や行政のパネラーを招聘し、白川郷世界遺産10周年記念国際フォーラムが開かれた。特にイタリアのアルベロベッロ、フランスのサン・テミリオン、アフガニスタンのバーミヤン、フィリピンの棚田の村の行政責任者を交えた「活きている遺産を将来にいかにして継ぐか」という議論は白熱した。論点は「村民の経済的な発展と世界遺産の存続を両立させるためには何をなすべきか?」ということである。白川村において守るべきものは、あの合掌造りの村という有形のものだけではなくて、合掌造りの村を持続させてきた村人の精神にある。白川村民憲章は次のように定められている。

  1. 美しい風土を誇り自然を守ります。
  2. 純朴な心を失わず感謝の生活をします。
  3. 豊かな文化を尊び伝統を活かします。
  4. 厳しい自然に負けずたくましく生きます。
  5. 互いに力を合わせ住みよい村をつくります。

トヨタ自動車はこの白川村に、自然との共生、地域との共生を理念に「トヨタ白川郷自然学校」を2005年4月開校した。自然体験学習のプログラムオプションを楽しめるリゾート施設であり、その経営は白川村村民、全国のさまざまな環境団体、そしてトヨタ自動車から構成される「NPO法人白川郷自然共生フォーラム」が行う。トヨタ自動車は自動車社会の持続性に主体的に活動する責務を負っているが、「発展と環境保全」という命題は白川村と共有する。トヨタ自動車は白川村における活動において、白川村の持続性に貢献していきたいと考えているだけでなく、そこから多くのことを勉強させていただきたいと思っている。

■ 地球と人類の持続性

ライトアップされた、世界遺産白川郷合掌集落の冬景色。

持続可能な発展の定義はノルウェーのブルントラント元首相の言葉で言い尽くされている*。人類は自分の外にリソーセスを確保できるシステムを創造し発展をしてきた。例えば、言葉と文字の発明による本と教育制度。貨幣の発明による銀行と貯蓄制度等々である。当然ながら、これは地球における生物の歴史上いまだかつてないことであり、これによって我々は生体の容量を越えて大きな能力を持てるようになった。過去の歴史は環境の変化が種の絶滅をもたらした多くの事例を示している。しかし人類は、持続性のために環境を変えてしまう営みを当然のごとく実行しており、なかには地球生命体との共存を忘れて、知らず知らずのうちに人類だけの持続性という傲慢が見えることも確かである。我々の築いてきた文明・文化は素晴らしいものである。その素晴らしさを持続させるためには、それをもたらしてくれた地球という生命体に対して、もっと優しく、謙虚であるべきである。

*ブルントラント元首相は、国連「環境と開発に関する委員会」の委員長として、1987年に報告書『我ら共有の未来(Our Common Future)』を公表。持続可能な開発を"将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような開発"と定義した。