アジア太平洋地域や国内の自然保護プロジェクトを支援する事業


日本経団連自然保護基金/日本経団連自然保護協議会


KNCF NEWS 巻頭言 No.37

KNCF NEWS 巻頭言 No.37

夢と英知を信じて


本田技研工業株式会社
環境担当役員 専務取締役
萩野 道義

弊社で恒例となった「砂漠植林ボランティア」の募集が始まる。募集に先立ち社員食堂の一角で写真展示が行われている。現地の子どもたちと従業員が共同作業で苗木を植える写真に心が和む。厳しい環境下でのボランティア活動にもかかわらず、毎回大勢の応募があり環境への関心の高まりを実感する。
この活動は、砂漠化した300haの土地を30年計画で人と自然が共存可能な緑の大地に蘇らせる計画である。この活動も7年目に入り現地、中国・内蒙古自治区の人たちもわれわれの活動に刺激され、自主的な植林の動きも出てきている。ボランティア活動による植林は小さな一歩にすぎないが、実は不可能と考えられてきた砂漠化した土地の緑化への取り組みが、広く現地に波及することを目指している。
またボランティアに参加した従業員とその家族が環境問題を深く考えるキッカケにもなってほしい。従業員の環境意識の高まりが、環境に配慮した企業活動や地域活動への原動力になると思う。


砂漠を緑の大地へ。
植林作業を行う中国・内蒙古の小学生と従業員ボランティア。

弊社の創業者である本田宗一郎は企業理念の中心に「夢」を掲げた。弊社が四輪車ビジネスに参入した1960年代半ばから日本やアメリカの大気汚染問題が深刻になり、自動車の排出ガス規制が強化される時代になった。1970年には通称「マスキー法」が米議会で可決され、アメリカで四輪車の販売開始直後の弊社にとっては晴天の霹靂、大きな課題に直面した。ビッグ3をはじめ多くのメーカーが、この規制値の達成は不可能、と主張するなか、ホンダは「未来の子どもたちにきれいな青空を残したい」という夢に賭けた。研究所の開発力を排出ガス対策に集中的に投下し、開発はレース活動のようなスピードで進み、1972年には世界に先駆けてCVCCエンジンでマスキー法をクリアーすることができた。
「未来の子どもたちにきれいな青空を残したい」という夢は、その後も若い世代に受け継がれた。クリーンエネルギーの研究をしていた一人の若い技術者の太陽電池自動車に賭ける夢。その実現に、全社から公募されたメンバーによりプロジェクトチームが結成された。そして1990年、オーストラリア南北3000キロを太陽エネルギーだけを動力源に走るソーラーカーレースに初挑戦した。そして3年後、空気抵抗を減らし、軽量化を進め、幾多の改良を重ねたドリーム号は、1993年念願の初優勝を果たした。太陽エネルギーだけを頼りに、オーストラリアの大地を平均時速85キロメートルで走り抜ける快挙を実現した。この時のソーラーカーの技術は現在の燃料電池自動車や太陽電池パネルに引き継がれた。


排出するのは水だけ。
燃料電池自動車と個人ユーザーSpallinoさんご一家。

人類は20世紀という石油エネルギーの時代を経て、豊かな生活と引き換えに地球に負荷をかけ続けてきた。現在、地球上には7億台を超える自動車があるといわれるが、これが2020年までに2倍に増えるという見通しがある。そうなると化石エネルギーは枯渇し、大気汚染と地球温暖化はもっと深刻化するかもしれない。私は一人の技術者として強い危機感を持っている。だからこそ、今のうちにモビリティー企業として、やるべきことは全てやっておきたいと考えている。当時不可能といわれたマスキー法以来、弊社はさらにガソリンエンジンの排出ガスに含まれる有害物質を低減する技術開発に取り組み、30年かけて約千分の一まで低減することができた。さらに限りなくゼロにするまで技術開発を続ける。ガソリンエンジンのクリーン化だけでなく、ハイブリッド自動車、天然ガス自動車、そして燃料電池自動車の技術開発も加速する。CO2と地球温暖化の関連性については今後も研究と議論が必要だが、CO2が地球のバランスを崩しているのは事実だろう。化石エネルギーだけに頼らず、CO2の総量を減らすために太陽電池の技術開発を続けている。これからも次世代エネルギー技術のあらゆる選択肢を研究してゆく。
未来のクルマ社会の構想として、米国カリフォルニア州に弊社で開発した太陽電池パネルで発電し、その電気を使って水を電気分解して水素を作り、この水素を使って燃料電池自動車を走らせる実験を行っている。太陽エネルギーを利用するので水素の製造過程でもCO2を出さない。まだまだ実用化には課題も多いが、これが実用化すれば、完全な再生可能エネルギーによるクルマ社会が実現する。エネルギー源は太陽、排出されるのは水だけということになる。難しいといわれたことも何とか実現させてしまう、人間の夢と英知は限りない。

中国・内蒙古の砂漠でわれわれとともに植林活動に汗を流した子どもたちが大人になる頃にはこのような夢の社会が、身近なものになっているかもしれない。そして内蒙古の砂漠には緑の大地が蘇っていることを信じて。