アジア太平洋地域や国内の自然保護プロジェクトを支援する事業


日本経団連自然保護基金/日本経団連自然保護協議会


KNCF NEWS 巻頭言 No.40

KNCF NEWS 巻頭言 No.40

自然とのコミュニケーションを大切に


東京電力株式会社
取締役副社長
早瀬 佑一
■自然の一員である人間

私たち人間は、この地球に登場して以来、道具を作り技術を磨くことによって飛躍的に生産力を高め、特に産業革命以降、急激なスピードで今日の高度な文明社会を築いてきました。近年、その発展が地球規模での資源と環境に深刻な影響を与えてしまったことへの反省から、私たちはCO2の排出抑制や資源循環、有害物質の低減などさまざまな環境対策に取り組んでいますが、そこでも技術の力が大きな役割を果たしています。人類が持てる叡智と技術力を結集して、地球環境を次世代、次々世代へと守り続けることを念願します。しかし、どんなに技術文明が進歩しても、驚異と神秘に満ちた「自然」の営みへの感動、草花や動物と触れ合う素直な喜びは、未来永劫、変わることはないでしょう。なぜなら、そもそも私たち自身が、自然の一員として、その恵みを受けて生かされているからです。

■尾瀬の自然と人間のかかわり

わが国は四季折々の変化に富む豊かな自然に恵まれていますが、数多い自然景勝地のなかでも、最もよく知られた場所の一つに「尾瀬」があります。多くの人が名曲「夏の思い出」やミズバショウが咲き誇る光景などを思い浮かべる、いわば日本の心のふるさとであり、多様な動植物が生息し特有な生態系が保たれている貴重な自然の宝庫です。昨年11月に「ラムサール条約湿地」に登録され、国際的にも重要な湿地として認められました。しかし、この尾瀬には苦い教訓の歴史があります。木道やトイレなどがまだ十分に整備されていなかった昭和30年代後半、「尾瀬ブーム」に乗って大勢のハイカーが訪れ、湿原を歩き回り、踏み荒らしてしまいました。その結果、湿原を形作る泥炭層がむき出しになり、たちまちにして広大な湿原が荒廃してしまったのです。
現在、尾瀬の湿原には全長約60kmにわたる木道が敷かれています。もし、自然を残すことだけが目的なら、立ち入り禁止にし、隔離してしまえば済むことだったかもしれません。しかし、自然の美しさや貴さ、守ることの大切さは、間近に接することでより強く実感できるものです。入山者が自然に与える影響を最小限に抑えるために敷かれたこの木道こそ、人と自然が適度に触れ合うことの大切さを象徴的に表しているように思います。東京電力は、この木道の敷設・維持や荒廃したアヤメ平の湿原回復、公衆トイレの整備など、尾瀬の自然を守るためのさまざまな活動に長年にわたって取り組んできました。その原点は、人間が自然と「対峙」するのではなく、適切に保護しながらやさしくコミュニケーションを図り共生していくという考え方にあります。この考え方は、東京電力が自然に相対する基本姿勢として、これからも受け継いでいきます。

■これからの地球を担う子どもたちのために

秘境や景勝地だけでなく、私たちが日頃暮らしている場所にも、よく見れば、実にさまざまな自然が息づいています。身近な自然への愛着は、環境問題への当事者意識を高めることにつながり、特に未来を担う子どもたちの環境意識を育む上で大変重要です。
東京電力の発電所では、従来からそれぞれの地域の特性を考慮して水辺や草地など動植物の生息環境の整備に力を入れてきましたが、こうした緑地を地域社会に開放し、1993年から独自の自然体験プログラム「TEPCOペアウオッチング」を開始しました。参加した子どもたちは一様に活気に満ち、目を輝かせながら発電所に棲む魚、虫などの生き物たちとの触れ合いを楽しんでいます。これまでに、小学生を中心に1万人以上の方々に参加していただきました。この活動が、環境教育支援として、また現代の都市生活に不足している生の自然体験の一場面として、健やかな心の育成につながることを願っています。さらに、こうした体験学習を学校教育現場にも広めたいとの思いから、99年より小中学校の先生方を対象とした研修会も開催しています。

■コミュニケーションと協働の大切さ

自然を守る取り組みをしっかり進めるためには、自然に関する知見の蓄積や技術の向上が重要なのは言うまでもありませんが、それに取り組む人間同士のコミュニケーションや協働の深化が極めて大切であると感じています。尾瀬では、地元自治体をはじめ、さまざまな人々が一致協力して保護活動に取り組むとともに、「ゴミ持ち帰り運動」や隣接する戸倉山林での「植林ボランティア」などでは年齢や住所もまちまちの幅広い市民の方々の協働により着実な成果が上がっています。
個々の人間は、ともすれば自己満足で独りよがりになりがちですが、他者と積極的に対話し、相手の良いところは進んで吸収しながら、皆の知恵と力を集めて取り組むことによって、本当の意味で広さと深みのある人生が実現できると思います。
言葉は、私たち人間にとってお互いのコミュニケーションを図るのに最も有効な手段です。しかし、言葉だけでは意思疎通がうまくいかないことも多くあります。言葉では伝えられない思いをいかに相手に届けるかで悩むのが人間です。むしろ言葉を持たない動植物などの方が、巧みにコミュニケーションを図っているように思えることがあります。動物との触れ合いが人の心を癒す効果を持っていることは広く知られています。植物も、人間が話しかけたり音楽を聴かせたりすると生育が良くなるという経験談を聞いたことがあります。同じ生き物として、人と自然のコミュニケーションを重ねることで、私たちの生活はより一層豊かなものとなるのではないでしょうか。


原に敷かれた木道。東京電力は、その敷設・維持に取り組んでいる。