アジア太平洋地域や国内の自然保護プロジェクトを支援する事業


日本経団連自然保護基金/日本経団連自然保護協議会


KNCF NEWS 巻頭言 No.41

KNCF NEWS 巻頭言 No.41

伝統的焼畑と持続的森林経営


王子製紙株式会社
取締役常務執行役員
神田 憲二
■森のリサイクル

世界の紙需要は中国・インドを中心に、ますます増加していくと考えられています。今後の紙需要の増加に当たり、最も重要となるのは資源確保です。当社は、いままでの原材料本部を資源戦略本部へと改組し、総合的資源戦略をさらに強力に推し進めることとなりました。
王子製紙グループでは、資源の有効活用と安定供給を図るため、「森のリサイクル」と「紙のリサイクル」を王子製紙グループ環境憲章の行動指針に掲げています。
「紙のリサイクル」は、すでに紙作りの中に組み込まれており、欠かすことのできないシステムになっています。現在、古紙の回収率は約70%ですが、可能な限り、これを高めていきたいと思っています。
「森のリサイクル」は、持続可能な森林経営により育成された資源をソースとするグリーン調達のことで、海外植林がその柱になっています。現在までに16万haの植林を行っており、2010年度までには30万haに拡大し、輸入チップの40%を自社植林でまかなう計画です。
将来的には「森のリサイクル」と「紙のリサイクル」で原料をすべてまかなえるようにすることが目標です。

■ラオスでの海外植林

当社は、現在までに6カ国、11カ所で海外植林を行っていますが、その中の一つにラオスがあります。05年から植林を始め、最終植林目標を5万haとしています。この事業は持続可能な森林経営を行うのはもちろんのこと、地元への貢献としてコミュニティセンター・道路・井戸の建設、健康診断、学校の改修なども行っています。持続可能な森林経営を通じて、地域の生活条件あるいは地域環境の改善にも寄与していくことが王子製紙グループの海外植林に対する基本姿勢です。
ラオスは多様性に富んだ森林を有し、一人当たりの森林面積は周辺国のタイ・ベトナム・カンボジアを大きく引き離しています。しかし、持続可能なレベルを超えた焼畑、過剰・違法伐採などにより、森林率は、1940年に約70%だったものが、02年には41.5%へと大幅に減少してしまいました。

■焼畑は熱帯林減少の原因か

さて、焼畑は熱帯林減少の元凶のように言われていますが、正確には、熱帯林減少の原因となっているのは、本来のやり方をしていない「非伝統的焼畑」と言うべきです。
ラオスでは、政府により焼畑は禁止されていますが、ラオス北部山岳地では古くから続いてきた伝統的焼畑農業を営む村落が多く残っています。二次林を利用して1年間耕作し、10年前後の休閑期間をとるというのが基本です。1年間しか耕作しないので、森林の二次遷移も比較的スムーズに進みます。2〜3年間連続して数種類の作物を組み合わせる輪作型焼畑も行われます。この場合は、当然1年耕作焼畑よりも長期の休閑期をとります。
十分な休閑期間をとれば、焼畑農業は生態的調和を保つ持続可能な優れた農法ですが、近年は人口の増加が耕地不足を招き、十分な休閑期間をとれなくなっています。
このように、もはや伝統的なやり方で行うことができなくなった焼畑や、火入れ開墾が森林減少の原因になっています。

■伝統的な焼畑に学ぶ

焼畑は熱帯に特有なものだと思われていますが、実は全世界に普遍的な農耕様式でした。北欧を含むヨーロッパでも広く行われていました。焼畑は英語でswiddenとも言われますが、これは古いスカンジナビア語に語源を持っているそうです。日本でも広い範囲で行われており、近世以前には24万haを超えていたと言われています。1936年には全国で7万7000haありましたが50年には9500haまで減少し、その後の高度経済成長に伴って加速度的に衰退していきました。それでも70〜72年にかけては、四国の山岳地域だけで500戸の農家が350haの焼畑を営んでいたということです。いまでは宮崎県椎葉村や山形県鶴岡市で細々と行われているにすぎません。
焼畑では、火入れする前に樹木を伐採しますが、ラオスでは萌芽再生しやすいように、地上より数十cm高いところで幹を残すようにしています。また、作物も風土に合った多様な組み合わせを地域ごとに持っています。このように、伝統的焼畑農業は、生態学的に見て理にかなった「森を使い回す知恵」を持っています。
近年の研究では、伝統的焼畑の行為が森林植生の回復を通じて生物多様性の維持に一役買っているということが分かってきました。生物多様性を守るために、森林を立入り禁止にして厳格に保護するというのも一つの考え方ですが、森林を利用しながら保護する方が有効な場合もあります。92年のリオ・サミットで採択された森林原則声明では、「持続可能な森林経営」の重要性が強調され、それが世界の共通認識となりました。「持続利用」の考え方は、「焼畑の知恵」に通ずるものです。
私たち森林を利用する製紙会社も、伝統的焼畑から学べることは決して少なくないはずです。また、人類全体の生存のためにも、伝統的焼畑文化も森林生態系から切り離せないものとして、また人類の知恵として守っていくべきでないでしょうか。


ラオスでの焼畑の様子。陸稲が植えられているが、樹木を地際からではなく、
高い位置で伐るのは、萌芽しやすくして森林の回復を早める知恵である。