アジア太平洋地域や国内の自然保護プロジェクトを支援する事業


日本経団連自然保護基金/日本経団連自然保護協議会


KNCF NEWS 巻頭言 No.43

KNCF NEWS 巻頭言 No.43

優れた環境を創出し、地域に還元する


清水建設株式会社
代表取締役専務執行役員
小野 武彦
■ 環境問題は避けて通れない

「地球環境問題に対する国民の意識は非常に高くなっているものの、わが国は京都議定書における温室効果ガス削減目標をなかなか達成できない」というのが実情です。これは、生態系の破壊や乱獲などの従来からの問題に加え、急速な温暖化の進行による深刻な環境への影響が顕著になってきたからです。

自然を開拓・開発していくという時代はもはや過去のものであり、資源の量や生態系の許容量の限界が科学的に立証されてきた現在、我々は、環境への考え方を「開拓・開発から共生」へ切り替えていかなければなりません。

しかし、環境問題は、さまざまな問題が複雑に絡み合うため、一つの対策ですべての問題が解決するほど単純なものではありません。環境に対する社会の要求や規制も強化されています。今後、どの企業でも、環境問題は避けて通れないでしょう。従来の保護や保全の考えにとどまらず、科学や技術の知見を集めて自然環境の再生を積極的に進めていく時代になってきたといえるでしょう。

■ エコロジカル・ランドスケープ

これまで、建設業というと、環境を破壊して面開発や道路などのインフラを造るイメージが強いものでした。しかし、一方では、原環境よりも優れた環境を創出・再生して地域に還元する開発も行っています。建設時が、環境を創出するチャンスでもあるからです。

エコロジカル・ランドスケープという手法があります。これは、「地域の潜在能力を借りてその地域でなければ成しえない環境を保全・創出していく技術です。そして、その環境は、人を含めた生物全体にとって健全な生態系を維持していくものとなる」と定義されています*1。エコロジカル・ランドスケープには、「地域環境を見極めて、人が手を加えていいところといけないところを正しく認識すること」「人が2分の1を造り、残りの2分の1を自然に創ってもらうこと」という基本理念があります。エコシステムとエンジニアリングとデザインを同次元で解決することで初めて成立する考え方です。


完成した多自然型調整池。調整池周りの宅地の人気が高かった

エコロジカル・ランドスケープ手法を使った住宅開発の事例を紹介しましょう。もともと水田だった約40haの用地が700戸の住宅地として生まれ変わりました。これまで水田が担っていた遊水機能を2つの多自然型調整池が代替することで、遊水機能を保全しつつ新たな生態系を創出しました(写真参照)。護岸は、コンクリートブロックではなく水草で覆い、水鳥のすみかとなっています。ただし、安全性確保のため、水面下でさまざまな工夫が施されています。三面張りの調整池の約6割の建設費で完成することができました。池の水は地下水と連動しているため、人が造った池にしては自然の池に近い姿となっています。


■ 環境創出の環を拡げる

今後、建設業は、「多自然型調整池を持つ住宅団地の事例」に見られるように、あらゆる機会をとらえ、地域環境の本来あるべき姿を考えて開発するという姿勢が必要となるでしょう。そこで暮す人たちの声に耳を傾けるのはもちろんですが、自然の声にも耳を澄ませ、優れた環境を創出する努力が重要です。そのためには、自然生態系の専門家や自然生態系の保全に長く携わっている人たちの声に耳を傾け、ともに優れた環境の創出を目指す姿勢が不可欠と考えています。

私たちは、建設業に従事する者の使命が優れた環境の創出であることを再認識し、もの造りで培った心と技で、自然環境の創出・再生の環を拡げていく所存です。


設計時に描いたスケッチ

中世の円墳を多自然型調整池の一角に取り入れた
(Pal Town城西の杜、群馬県太田市)