アジア太平洋地域や国内の自然保護プロジェクトを支援する事業


日本経団連自然保護基金/日本経団連自然保護協議会


KNCF NEWS 巻頭言 No.50

KNCF NEWS 巻頭言 No.50

社有林“アサヒの森”を育む


アサヒビール株式会社 専務取締役専務執行役員
泉谷 直木
森林認証「FSC認証」を取得

広島県北部の庄原市と三次市にまたがるアサヒビールの社有林「アサヒの森」は、2001年3月、適正に管理された森だけに与えられる国際的な森林認証「FSC認証」を日本で3番目(上場企業では初めて)に取得した。FSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)は、森林の減少や劣化に対する関心が高まる中、1993年に環境団体や木材を扱う企業などが共同で発足させた機関で、本部はドイツのボンに置かれている。

FSC森林認証は、経済的な持続性や社会性だけでなく生態系へも配慮することなど、「FSCの10原則」に基づいた適正な管理が実践されているかどうか、定期的に厳格なチェックが行われる。10の原則には、法律や国際的な取り決めを遵守することはもちろんのこと、昔から森に暮らす人々(先住民)の伝統的な権利を尊重することや地域社会と良好な関係を築くことが定められている。また、近年、特に関心が寄せられている「生物多様性」の観点から、多くの生物が棲む豊かな生態系を維持することや人工林によって自然の森が影響を受けないようにすることについても言及されている。

手をかけ、いい森を育む

「アサヒの森」の起源となったアベマキの森

「アサヒの森」は大小15の山林からなり、その面積は2,165haで、東京ドーム463個分の広さに匹敵する。1941年、アサヒビールの前身である大日本麦酒が、当時ビール瓶の王冠の裏地に使用していたコルクが戦争によって輸入できなくなることに備えて、代用となる樹皮をもつアベマキの森を購入したのが起源である。終戦後、コルクも輸入できるようになると、荒廃した山を緑にしようと、スギやヒノキが試験的に植えられ、1960年頃からは本格的に植林が開始された。

スギやポットに入れたヒノキの苗を、丁寧に地ごしらえされた斜面に植える。周りの草や木に負けないよう下刈りをし、15年生ぐらいになると、真直ぐで節の少ない木にするため、枝を切り落とす枝打ち作業が始まる。

また同時に、成長して過密となった森では、本数を減らし、健康で丈夫な木を育成するとともに、陽光を入れることによって下層植生を茂らせ、土砂の流出を防ぎ、山の保水力を向上させるために、間伐作業を行う。「手をかければかけるほど、いい森に育つ。放っておくと雑草に負けてしまう。まるで子供と一緒だ」と、アサヒの森環境保全事務所の担当者は言う。

公益性のある国内屈指の森林

「アサヒの森」の林内を流れる渓流

「アサヒの森」は、広島県から全山「水源涵養保安林」に指定されている。この保安林とは、雨水を貯えて不純物をろ過した後、ゆっくりと放出する天然のダムの役割を果たす森のことで、安定した水源を確保したり、土砂の流出を防いだりする目的で指定されている。森の約25%は、アベマキ、ナラ、クリ、クヌギ、ケヤキ、ブナ、アカマツなどの自然林となっており、貴重な生態系が保全されている。森の一部は、ブナ林自然環境保全地域の指定を受けているほか、県立自然公園となっており、公益性のある国内屈指の森林として、専門家からも高い評価をいただいている。

自然の森には、イタチ、タヌキ、イノシシ、ツキノワグマなどの動物をはじめ、たくさんの生き物が暮らしている。林内を流れる渓流には、ヤマメ、サンショウウオのほかイワナの一種である「ゴギ」が生息し、県の天然記念物に指定されている。また、ハチの幼虫などを好んで食べる希少種「ハチクマ」というタカの一種も棲んでいる。山野草では、イワカガミやセンブリなどとともにエビネランやキビノクロウメモドキといった絶滅危惧種も四季を彩っている。こうした希少種が棲む地域は、保護区として伐採も禁止している。

全国で地域ぐるみの活動に発展

『「美しい地球の保全と人に優しく」を実現するために、「自然の恵み」を育んだ地球に感謝し、地球をより健全な状態で子孫に残すことを責務と考え、行動していきます』。これは、アサヒビールグループの環境基本方針の一節である。こうした理念に基づいて、「アサヒの森」に限らず全国各地で森林保全活動が実施されている。

2004年6月、西条市にある四国工場では、愛媛県東部の市町村が設立した「東予流域林業活性化センター」やボランティア団体「石鎚水源の森くらぶ」の方々と共同で、ビールづくりに使用する水を供給してくれる石鎚山系水源地の森の保全活動を社員のボランティアで開始した。地域の方々の森を守る熱い気持ちと、豊かな森林があればこそ、うまいビールをつくるおいしい水を利用できるとの社員の思いが一つとなり、地域ぐるみの活動となった。こうした活動は全国の工場でも共感を呼び、現在では全ビール工場の水源地の森で実施されている。さらに、昨年からは、各地の支社の社員による林野庁「レクリエーションの森」のオフィシャルサポーターの取り組みも始まっている。

本年4月、「アサヒの森」のヒノキとスギの森林の一部5.44haを「文化材」として登録した。世界に誇る木造文化財の神社、仏閣の修理には樹齢150年を超える木が使用されるが、用材が不足して、修理に支障をきたしかねない状況になっている。そこで、学者、神社・仏教界、林業経営者らによって、日本の木造文化財を守るシステムをつくろうと、2002年、「文化遺産を未来につなぐ森づくりの為の有識者会議」が設立された。同時に、国内に文化材を数多く育てる「文化材創造プロジェクト」が立ち上げられた。当社もこうした趣旨に賛同して登録したが、なにせ息の長い取り組みである。後輩たちの手によって引き継がれ、100年後、立派な巨木を是非育成してもらいたいと願っている。

さて、折りしも生物多様性条約締約国会議「COP10」が来年名古屋で開催される。グラスを傾け、生態系が産み出す豊かな恵みに感慨をめぐらすたびに、まだまだやることがあるはずとの思いを強くしている。