アジア太平洋地域や国内の自然保護プロジェクトを支援する事業


日本経団連自然保護基金/日本経団連自然保護協議会


KNCF NEWS 巻頭言 No.48

KNCF NEWS 巻頭言 No.48

生物多様性と経営者の責務


社団法人日本経済団体連合会 会長
キヤノン株式会社 代表取締役会長

御手洗 冨士夫
自然との関わり

私が生まれ育った大分県蒲江町(現:佐伯市)は、間近に迫る山と、小さな湾に挟まれたところだ。交通の便が悪いこともあって、今でも美しい自然が残っている。私は、小学校のころ、近所の友達と、日が暮れるまで、海で遠くまで泳いだり、山の原生林でターザンごっこをしたことなどをよく覚えている。故郷、蒲江町の豊かな大自然の懐に抱かれて育った。

30歳から23年間、アメリカで勤務した。遠く日本を離れ、アメリカで仕事に没頭する中でも、よく故郷の山や海のことを思ったものだ。だから帰国するたびに、蒲江町の実家へは必ず足を運んだ。あの海や、実家の裏山にある原生林をのんびりと眺めているうちに、また仕事に立ち向かうエネルギーをもらったものだ。

私にとっての自然とはそういうものである。故郷の大自然は私にとってのエネルギーの源であるとともに、一緒に遊んだ仲間との触れ合いから、知らず知らずのうちに多くの事を学んでいたようにも思う。

持続可能な社会と日本企業の進路

今、企業をめぐる経営環境は日々めまぐるしく変化している。とくに、世界のエネルギー消費・資源消費が増大する中、地球温暖化、資源の枯渇、砂漠化、森林破壊をはじめとする地球環境問題は、差し迫った状況となっている。また、企業の社会的責任の重要性は、ますます高まっている。このような状況に、真摯な姿勢で取り組みを進める企業のみが、地球環境を保ち、より利便性の高い“持続可能(サステナブル)な社会”に貢献できると考えている。

日本企業としては、文化、習慣、言語、民族などの違いを問わずに、すべての人類が末永く共に生き、共に働いて、幸せに暮らしていける社会を追求する事が大切だ。「共生」の理念のもと、グローバルな視点に立ってサステナブルな社会の実現に貢献していかなければならない。とりわけ、日本企業は、環境配慮と経済発展とを両立できる、世界の環境トップランナーを目指して、具体的に実践すべきである。

環境問題に関しては、従来の温暖化対策、3R(Reduce Reuse Recycle)、自然保護に加えて、最近、生物多様性への配慮が求められている。地球上には多種多様な生物が関わりあいながら存在し、その中で、われわれ人類は、各種の素材や木材、食料、淡水、酸素等の恵みを享受している。生物多様性への配慮は、企業としても常識になってきた。来年は国連の定めた生物多様性年である。また、来年10月には、名古屋市で、生物多様性条約締約国会議第10回会合(COP10)が開催され、2010年以降の世界の生物多様性の目標や企業の取り組みのあり方などが議論されることになっている。

経団連では、1991年の「地球環境憲章」、2003年の「自然保護宣言」に基づいて、生物多様性の保全を重視した自然保護活動を推進してきた。この度、改めて、われわれ人類が、自然の生態系から計り知れない恩恵を受けており、生物多様性が将来の持続可能な社会にとって重要な基盤であることを深く認識し、「生物多様性宣言」を策定した。われわれ経済界が、生物多様性の問題について、今まで以上に自発的、積極的に取り組むという明確な意思表示である。日本企業としては、生物多様性についても世界の経済界をリードする気概をもつ必要がある。

経営者のリーダーシップ

現在、日本も世界も未曾有の経済危機に直面している。こういう時期であるからこそ、原点に立ち返り、環境配慮と経済発展との調和のとれた経営を行う必要がある。企業は、社会との関わりの中で、利益を生み出し、それを従業員の生活安定や、社会貢献に役立てていくという使命を負っている。われわれ企業の経営者はこの事を肝に命じ、企業を正しい方向へ導く目標を設定し、その遂行のための戦略を描かなければならない。これは、リーダーが重い責任を負いながら決断すべきである。

私が経営するキヤノンには、創立以来伝わる「三自の精神」という行動指針がある。三自とは「自発・自治・自覚」である。自発とは「何事にも自ら進んで積極的に行なうこと」、自治とは「自分自身を管理すること」、そして、自覚とは「自分が置かれている立場・役割・状況をよく認識すること」である。生物多様性についても、企業が、社会的責任を自覚し、自発的かつ着実に取り組まなければならない。各企業が、経団連の生物多様性宣言を参考にしながら、持てる経営資源を活用して、自らの経営理念にあった個性的な取り組みを推進することを期待したい。

是非、すべての経営者が、生物多様性や環境問題について、各々の企業に相応しいビジョンを確立し、リーダーシップを発揮することにより、世界の模範となる取り組みが推進されることを願ってやまない。