アジア太平洋地域や国内の自然保護プロジェクトを支援する事業


日本経団連自然保護基金/経団連自然保護協議会


KNCF NEWS 巻頭言 No.53

KNCF NEWS 巻頭言 No.53

ステークホルダーである地球にも配当を


前田建設工業株式会社 代表取締役社長
小原 好一
人生観を変える体験

その瞬間、人生観が変わる。そのような景色や場面に出合う経験は、誰にでも一度はあると思う。私には忘れられない3つの景色があり、記憶に焼き付いている。

1つ目は28歳の時、マレーシアのダム建設工事に赴任を命じられ、カリマンタン(ボルネオ)島バタンアイ地区の建設予定地に降り立った時である。視界全域に広がる熱帯雨林、そしてその中を滔々と流れる赤茶色の濁流。自然が生み出した壮大な景色に、私は圧倒された。ダム建設により安定電力を供給し、地域の人々の生活水準を飛躍的に向上させるという貢献事業に携わる誇りとともに、地球の営みが永い年月をかけて造り上げたこの景観を可能な限り守る大切さを、同時に直感したことを鮮明に覚えている。

2つ目は、経団連自然保護協議会の視察における体験である。ケニア・ナイロビ自然保護区で、私たちのジープの目の前でインパラがハイエナやハゲタカに食べられ、1つの生命が物体へと変わっていくシーンを、私は食い入るように見つめていた。そこで私の心を支配していたのは恐ろしさではない。生命とは、エネルギーとして次の生き物に受け継がれていく連鎖なのだという発見に感動したのである。

そして3つ目も当協議会の視察での体験である。インドネシアのオランウータン生息地・クタイを訪れ、熱帯雨林で初めてその類人猿を見た時、「この動物はまさに森という生命体の一部であり、動く植物と表現した方が適切かもしれない」という感覚を覚えた。その類人猿の命そのものである森のすぐ隣で、緑を墨で塗りつぶすように侵食する真っ黒な巨大領域が確認できた。世界最大級の露天掘り炭坑が徐々に採掘範囲を拡大し、彼らの生息地を狭めていたのだ。ここで産出される石炭は高品質で、日本でも資源として大量に利用されていることを耳にした時、私たちの豊かで快適な生活は、この類人猿の生息地から太平洋を縦断してつながっていることを直感的に感じることができた。

このように、1つ目では地球の永年の営みのつながり、2つ目は命の連鎖のつながり、3つ目はグローバルな環境と経済のつながり、私はそれぞれ切り口の異なる「つながり」を本能的に直感し、人生観を深める機会に恵まれたのである。

地球への配当

私は昨年、前田建設の社長に就任した際、「環境経営No.1と言われる建設会社を目指す」ことを企業の中長期ビジョンとして掲げた。その根底となる私の経営理念に、前述の3つの体験が影響していることは言うまでもない。

そして私は、真の環境経営とは何かを自問する際に、まず「地球も私たち企業の大切なステークホルダー」であると明示することから始めた。これは、事業活動により「悪影響を与える対象」として地球を見るという単純な発想ではない。私たち企業は、地球より石油などの資源やセメントなどの資材を提供され=出資され、それを基に事業活動を営み、付加価値を生みだしている。すなわち、地球は株主と同様、企業への「出資者」と考えるべきであり、株主と同様に付加価値の一部を配当すべきだということに気づいたのである。この配当施策が当社の提言している「地球への配当」である。当社は連結純利益の2%を目安に、地球環境への寄付等に「配当」として拠出することを決めている。

我々は営利企業であると同時に、企業市民でもある。事業を通したCO2削減等による貢献に加え、事業外での地球環境への貢献を付加価値配分という経済価値でコミットし、社会に公開していくことは、「環境」と「経営」との真の融合に向けた大切な一歩と考えている。

意識、連携、そしてecoチャネルの構築

先に挙げた体験の中で、私はさまざまな人との出会いも経験した。ダム現場ではマレーシア人はもとより、インドネシア、中国、インド人など、民族や宗教などの異なる技術者や作業員と共同で事業を遂行した。そこでは、文化の多様性を相互に認め、連携して課題を解決していくことの重要性を学んだ。インドネシアでは、オランウータン研究の権威・鈴木 晃先生やご家族にお話を伺うことができた。現地に居を構え、生涯をかけて一つのことを追求するという生き方に、感動を覚えずにはいられなかった。同時に、人間一人の強い意志と継続的な行動が賛同する人々の連携の輪をつくり、それが世界を動かす原動力にもなりうることを教えていただいた。私は、地球規模の環境問題の解決においても、基本的には一人ひとりの「意識」、そして互いの信頼に基づく「連携」した多様な行動、この2点にかかっていると考えている。

「地球への配当」においても、NPO等に寄付を拠出する際のプランとして、この2点に重点を置いた総合計画「MAEDAグリーンコミット」を策定した。子どもたちへの環境教育、森林整備によるCO2削減、エコロード等の生物多様性貢献、国際的環境支援など、多様な非営利活動に対してバランスのとれた寄付を行うとともに、寄付先のNPO等の皆さんと一緒に、できる限り社員や家族、子どもたちが参加できる計画を目指している。私が当協議会の視察を通してさまざまな知見を得たように、私たちの活動に参加した子どもたちが自然や命に対する考え方を深める機会となれば、これに勝る喜びはない。

これまで、経団連自然保護協議会は企業とNPO等をつなぐ環境連携のネットワーク、いわば「ecoチャネル」のハブとして大きな役割を果たしてきた。今後は各企業においても、独自の技術や経営資源を活かすとともに、自らがハブとなってNPO等とのecoチャネルを拡充し、彼らと連携した活動により、複雑化・多様化する環境問題の解決に貢献していく経営姿勢がさらに重要性を増してくると確信している。


マサイマラ国立保護区視察(ケニア共和国)

露天掘り事業所見学(インドネシア)