アジア太平洋地域や国内の自然保護プロジェクトを支援する事業


日本経団連自然保護基金/日本経団連自然保護協議会


KNCF NEWS 巻頭言 No.51

KNCF NEWS 巻頭言 No.51

人がいきいきとする環境づくり


大成建設株式会社 代表取締役社長
山内 隆司
人と自然のかかわり

近い将来、資源浪費型の社会構造は立ち行かなくなることが予想され、地球環境問題への人々の関心がますます高まっている。当社はすでに20年前から「人がいきいきとする環境を創造する」という経営理念を掲げ、人と自然との関係を大切にし自然から学ぶこと、それを活かすことを経営上の重要課題と位置付けており、環境問題の解決にあたって建設業の役割は非常に大きいものと考えている。また、本年は国連の定める国際生物多様性年であり、秋には名古屋で生物多様性条約第10回締約国会議が開催される。我々にとっては、生活に欠かすことのできない生態系サービスについて改めて注目を集める良いチャンスとなる。

当社は、経営方針に基づき、2007年にすべての事業活動において生物多様性に配慮することを打ち出した「大成建設生態系保全ガイドライン」を作成し運用している。また、昨年10月には、社内の環境人材や情報を一元化することを目的として環境本部を立ち上げ、同本部を中心に低炭素社会や循環型社会形成に資する事業活動および生物多様性保全に貢献する活動を行っている。

人や生き物がいきいきとする街づくり
◆ 都市部の生態系の再生

札幌ドーム周辺

当社は、現在のように声高に環境問題が叫ばれるようになる以前から、「環境ごと設計する」を合言葉に、その場所その場所の風や雨、木々や生き物など、地域の自然環境に適した計画を行う「エコロジカル・プランニング」という計画技術の開発に着手した。

そうした取り組みの大きな成果として結実したのが、01年に誕生した日本最北の全天候型ドーム「札幌ドーム」である。31haに及ぶ農業試験場の跡地を利用して建設された札幌ドームは、その周辺に広がる豊かな緑地との連続性を維持しながら開発された。竣工後の樹林の復元、水辺の創出を視野に入れた設計・施工の結果、現在では建設前に比べても多くの動植物が息づく環境が生まれている。

その他にも、多くの調査データを基に、鳥などの生息空間を形成する解析・計画方法などがあり、都市の小さな緑地でもある種数の鳥を必ず誘致できる提案が可能となっている。

◆ 山間部や里山における生物多様性保全

山間部や里山における開発事業においては、特に生態系などへの影響を回避、最小限化することが重要であるが、どうしても避けられない場合がある。そのような場合に、環境に対する影響を軽減・緩和するための措置全般をミチゲーションと呼ぶ。

国内のミチゲーション案件に当社が関与した典型的な事例として、オゼイトトンボなどの希少種が生息する湿地を移転再生したプロジェクトが挙げられる。これは発電所の増設工事のために掘削された岩によって埋め立てられることとなった湿地を、同一敷地内で復元再生したものである。先に保全対象種の少ない陸地状の部分を埋め立て、その上に新たに湿地を造成し元の湿地との共存期間を長期間にわたり設け、生態系を徐々に移してきた。工事中、竣工後も継続して貴重な動植物の生息をモニタリングしているが、オゼイトトンボなどの個体数の増加やミズドクサの定着が確認されるなど、湿地の生き物たちがミチゲーションされた新たな環境に順応していることが分かっている。

また、本誌でも何度かご紹介いただいている、道路や側溝などの直線的な構造物により森林が分断された地域で、樹上性小動物のための森と森を結ぶ「アニマルパスウェイ」などの研究・実施をNGOや他社企業と行っており、これもミチゲーション事例の先駆けとも言える。

社会貢献活動

2009年10月17日に開催された富士山南陵植樹祭

当社の子会社が富士山南陵において開発している工業団地「Eco-Factory Mt.Fuji」では、10年をかけた森作りをテーマに、人と森をつなぐ活動「南陵の森・フォレストセイバープロジェクト」を実施している。これは、行政・大学・地元NPOや地域と協働で植樹やどんぐり拾い、きのこの菌打ちなどを実施することで、人と森の持続的・多目的なかかわりを推進するものである。昨年10月には地元の方や当社グループ社員を中心に約1,200名による植樹祭も行い、森作りの活動が、結果として工業団地としての魅力を高めることにもつながっている。また1993年に創設した公益信託「大成建設・自然歴史環境基金」はすでに338件の支援を行っており、多くのNGOやNPOならびに研究者の皆さんに活用していただいている。

世界にはかつて森林破壊や食糧となる動物種の絶滅から文明崩壊が起きた島もあると言われるなど、地球温暖化による急激な気候変動、あるいは地下資源枯渇、生物多様性の喪失などにより人類の存続に大きく影響を及ぼす可能性がある。このような環境問題を解決する分野では日本は世界のリーダーに成り得る可能性が十分にある。大成建設は、建設事業を通じて地球環境に貢献する技術・取り組みをさらに高めていかなければならないのはもちろんのこと、社員一人ひとりが自然や生物多様性保全にかかわる貢献に参加できるような体制を今後も継続し、推進する所存である。「人がいきいきとする環境」は、さまざまな生き物が多様に共生する環境でなければならない。