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「生態系を活用した防災・減災と企業活動」

2015.6.28

経団連自然保護協議会会長 損害保険ジャパン日本興亜相談役 佐藤 正敏

2004年12月のスマトラ沖大地震では、東南アジア各国の沿岸地域に大きな津波被害が発生した。その災害防止策を検討するなかで、生態系を活用した防災・減災の研究も各国で盛んに行われるようになり、日本においても東日本大震災を契機に、海岸線の防潮林などの防災効果等があらためて注目されるようになった。今年3月に開催された第3回国連世界防災会議(仙台)の公式イベントでも、このテーマにフォーカスされたサイドイベントが開かれた。旧来の工学的な手法による防災・減災策に加えて、地域の生態系を活用した防災・減災の手法を検討していくことは、企業と地域共生のあり方にも新しい局面を開く可能性がある。


「国際的な連携による研究推進」

10年前の2005年に神戸で開催された「第2回国連防災世界会議」にて採択された「災害に強い国・コミュニティの構築:兵庫行動枠組2005―2015」は、それまでの防災の概念をさらに推し進めて、災害リスクの削減に重点を置いた実質的には最初の国際的な枠組みとなった。そこでは、ハザード(危険)は必ず起きるとの前提のもとに、発生する被害をいかに最少にとどめるかという発想をベースとしている。


「兵庫行動枠組」では、リスクや脆弱性の軽減のために、生態系の適切な管理といった非工学的な方策と、災害リスク軽減を組み込んだ総合的な環境・天然資源管理の実施が、優先されるべき実施課題の一つとして採択された。


2008年にはIUCN(国際自然保護連合)を含めた10以上の国際機関やNGOが、環境と防災・減災に関するパートナシシップ PEDRR:Partnership for Envi-ronment and Disaster Risk Reduction)を設立し、生態系基盤を活用した防災・減災や生物多様性との関係について、世界各国からの情報や知見を集め、トレーニングやワークショップを実施し、防災政策への提言活動も行っている。昨年10月に韓国の平昌(ピョンチャン)で開催されたCOP(生物多様性条約第12回締約国会議)においても、日本からの提案により、生態系を活用した気候変動関連活動と災害リスク削減について各国や機関の関連政策への反映を求めるとともに条約事務局長に対して、実施事例の収集、結果の分析を行い、2016年に予定されているCOP13の開催より前にSBSTTA(生物多様性条約の科学技術助言補助機関)に報告することを要請することが決定された。このように国際的なレベルで生態系を活用した防災・減災の研究が進められており、具体的な政策へ反映も各国で行われつつある。


日本でも環境省が2012年3月に「三陸復興国立公園の創設を核としたグリーン復興のビジョン」を発表し、被災地域の復興・再生に生態系を活用するという斬新なプランを打ち出した。経団連自然保護協議会も2014年5月に、同国立公園構想の主要拠点である岩手県宮古市で、津波で被災した「中の浜野営場跡地」に「震災メモリアルパーク中の浜」が整備されるなか、公園の一角に岩手県産/地域産の苗木四〇〇本余を植樹し「復興ふれあいの森」づくりを行った。


「マングローブ植林や湿地、珊瑚礁などの保全の効用」

生態系の防災・減災活用が検討されている災害リスクの対象事象は幅が広く、主なものとしては、「高潮・津波」「洪水」「地滑り・落石」「ハリケーン・嵐」「森林火災」や「旱魃・沙漠化」なども対象に研究されている。その研究成果はそれぞれに適合する生態系の当該災害リスクの防災や減災に活用されている。経団連自然保護協議会が経団連自然保護基金を通じて支援する活動のなかで、生態系を活用した防災・減災の目的を含む事業の実例をあげると、代表的なものにマングローブの植林事業がある。マングローブ林は、実際にスマトラ沖大地震の際に沿岸地域住民の生活拠点への直接的な防災・減災効果が確認されている。またマングローブは成長も速く、かつ光合成により大気中から二酸化炭素を吸収する率も高いうえに、そこから炭素を樹木や根の部分に取り込んで保存していく特性に優れており、地球温暖化リスクの軽減への有効な生態系の活用例として世界的に注目されている。


経団連自然保護協議会では、タイのナコンシタマラート地区の日・タイのNGO合同による大規模なマングローブ植林事業(約一二〇〇ha )を、一九九八年から継続的に活動支援しており、タイの政府関係者や環境研究所からもその取り組みと成果が高く評価されている。湿地の保全活動も、希少な動植物の生態の保護という観点だけでなく、洪水時の保水・遊水機能や、海岸の堤防の後背湿地による高潮・津波被害の減災機能が災害リスク管理の観点から重視されており、経団連自然保護協議会も毎年度国内・海外の複数の湿地保全プロジェクト活動を支援している。


また、インドネシアやセーシェル島の珊瑚礁の保全活動の支援などにも取り組んでいる。珊瑚礁は、海のオアシスとも呼ばれるほど浅海における海洋生物の多様性保全に役立つだけでなく、海岸を取り巻く珊瑚礁が、津波や台風による高波被害の防波堤的な役割も果たすとともに、その骨格や有孔虫の殻が砂浜形成などの海岸保全にも役立っている。


「生態系活用の防災・減災と企業の地域共生」

現在、企業においては防災・減災の検討作業は、自社の事業継続性を担保するためにBCP(事業継続計画)を構築し、それを維持していくことを中心に行われているが、最近では「あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応」(内閣府最新ガイドライン第三版)が求められ、企業単独でなく、企業グループや活動拠点の地域社会とも連動した防災・減災プランの立案と実行が必要とされてきている。そこで地域社会
とも連動した防災・減災プランを検討する上では、企業は「地域との共生と貢献」の意識を持って取り組むことが重要になってくる。


企業は各活動拠点において、自己の施設・設備内のリスク管理だけでなく、その地域社会や自治体が、どのような防災・減災プランを検討しているかも視野に入れる必要がある。もしさまざまな生態系を活用した防災・減災プラン、例えば避難場所用の用地確保や、洪水災害防止や、緊急時の飲料水の確保のための地下水脈の保全、地滑り防止などのための植林などに取り組んでいる事例があれば、その現状や課題をよく把握したうえで、自社の事業継続性と安全な地域社会の共生と貢献を目指した事業継続計画を地域社会と連動して整備していくことが今後の重要な課題となる。経団連自然保護協議会では、引き続き、地域住民やNGOの活動や取り組みを支援するとともに、企業が地域を構成する一員として、「生態系を活用した防災・減災」の取り組みついて積極的な貢献を果たせるように支援していく。


月刊経団連2015年4月号より許諾を得て転載しました。 (事務局)

写真①:岩手県宮古市に開園した「震災メモリアルパーク中の浜」で植樹し「復興ふれあいの森」作りを実施(2014年5月24日)
写真②:基金助成先のマングローブ植林事業を視察する経団連自然保護協議会視察団(2014年10月6日 タイ・ナコンシタマラート地区にて)

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