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フィリピン・マレーシア環境紀行

2015.11.6

エコノミスト 叶 芳和

2015年度海外視察ミッションにもご参加いただいたエコノミストの叶芳和氏から、下記記事の転載をご了解いただきましたので掲載いたします。(経団連自然保護協議会事務局)


本稿の初出はWEBみんかぶ(ニュース/記事コラム)2015年11月2日掲載
http://money.minkabu.jp/52588


【著者】叶 芳和2015年11月2日

辺境の地での自然保護は、規制や監視の強化ではなく、住民に代替的な生活手段を提案することの方が有効である。そのためには、NGOは知識武装集団でなくてはならない。フィリピンでは有機農業、マレーシアでは熱帯雨林の再生に取り組んでいるNGOを視察した。


*本稿は、前編「フィリピン新展望‐製造業発展戦略は可能か‐」(当Webサイト11月2日掲載)の続きである。


Ⅲ.生物多様性と有機農業

 今回のフィリピン行(10月初旬)は、経団連自然保護協議会の海外視察ミッション(団長: 小原好一前田建設工業社長)に参加したものである。経団連自然保護協議会は世界中の自然保護関係NGOに助成金を出しているのであるが、助成金が効果的に使われているかの検証、さらに、どういうプロジェクトに助成金を出せば自然保護に役立つかを発見するために、毎年世界のNGOの活動サイトを現地視察している。
 今年は、マニラ南東150㎞に位置するルクバン町Lucban(人口5万1000人)において、ミミズ堆肥による有機農法を普及しているNGOを現地視察した。


◇フィリピン環境天然資源省
 環境天然資源省で、レビュルタテ(Analiza REBUELTA-THE)次官を表敬訪問した(マニラ)。フィリピンでは2011年以来、大型の植林事業(NGP)を実施しているようだ。NGP事業は、・緑に戻す、・CO2ガス削減、・貧しい人に職を与える、・15年後木材として収穫、生活に役立てる。150万haの土地で植林を行っているが、計画以上に達成していると言う。

 レビュルタテ次官の話に感銘を受けた。「自然保護地区を指定し、国は支援しているが、資金不足で実施に至らないものが多い。保護地区を守ると、観光地としても使える。そうなると、収入があるので、持続的に保護されるようになる」。
 「自然保護で一番重要なことは、森の中に住んで生活している人たちに、どうやって仕事を与え、同時に自然を保護するかだ。森の住民の経済活動が自然を破壊している。代替的な仕事を与えて、自然を保護したい」。
 「フィリピンで密輸で希少動物を採って、闇で海外へ持ち出すことが多い。何処で、どうやっているか、警察の能力に限界がある」

 つまり、規制ではなく、代替的な生活手段を工夫することが重要と言う事であろう。フィリピンは多くの島々からなる島嶼国家であり、まだ未開僻地が多い。絶滅危惧種などの保護地区は辺境地に多いが、辺境の地では監視の目も届きにくいので、規制の効果はない。インセンティブを与えることでしか有効な自然保護は出来ない。「代替的な生活手段を考えだす知恵」が必要なのだ。

 本来、エコノミストである筆者が自然保護活動に興味を持つようになったのは、じつはこの一点にある。6年前(2009年)、今回と同じ経団連自然保護協議会のミッションで、タイ内湾の湿地帯(塩田)を視察した。世界中で700羽しか生存していないヘラシギなどの飛来地だ。NGOによって塩田地帯がIBA(重要野鳥生息地)に指定され、冬期にはバードウオッチングのため、世界中から観光客が訪れる。住民は塩販売のほか、観光客相手にTシャツなど土産品を売っている。野鳥を保護することがお金につながるので,この地域では野鳥を殺す人はいなくなった。渡り鳥の飛来はエコツアーを呼び込む大切な観光資源だからだ。

 同じ年、フィリピンのミンドロ島を訪問した。ここは世界的にも重要な絶滅危惧種が何種類も存在する地域である。絶滅危惧種のミンドロハトや小型水牛は山の低地林に生息している。ところが住民は森を利用(伐採)して生活している。木を伐り、材木として売ったり、薪として使う。化学肥料を買うため現金が必要だからだ。そこで、有機農業で野菜を自給できるようにし、化学肥料を買う金を要らなくすることで、森林伐採を減らした。NGOの知恵だ。「〇○反対」方式の運動ではなく、代替的な生活手段を提案することに知恵を出す。

 タイのNGOの事務局長も、フィリピンのNGOの代表も、大学卒であるが、NGO活動を経験した後、再び大学院に入って学んでいた。自分たちのNGO活動にとって、知識や研究能力をもう一段培うことが大切と言う事を知ったからであろう。筆者はこの視察団以来、「自然保護NGOは知識集約型産業」という規定を与えている。効果的な自然保護活動には、動植物の生理学、病理学、行動科学などに対する深い知見が必要だからだ。また、企業や政府と対峙しなければならないことも多い。自然を壊すのは、往々にして、企業であったり、政府である(公共事業)。企業と闘い、政府と闘うためには、情熱だけではなく、知恵が必要だ。エリート・サラリーマンや官僚より、知恵がないと自然は守れない。「知恵」こそ、自然保護にとって最も重要な要素なのである。
 なお、対峙だけではなく、政府機能を補完するのもNGOである。フィリピンは政府が頼りないところがあり、NGOがその不十分な政府機能を補完しており、「NGO大国」でもあるようだ。

(参考)拙稿「自然保護NPOは知識集約型産業」経団連自然保護協議会刊『KNCF NEWS 2010 Winter』。同「絶滅危惧種を保護する方法」南海日日新聞2009年11月2日(3面ひろば欄、談論)及び同「奄美の自然を守る方途」奄美新聞2009年10月14日(5面)。

◇OISCAルクバン研修センター・有機農法の普及

 マニラ南東150㎞に位置するルクバン町Lucban(ケソン州)を訪問した。ルクバンはフィリピンの地方都市の中ではレベルが高いようだ。歴史を感じさせる落ち着いた街で、教育や人間信頼など、評価が高い。この地区で、日本のNGO・オイスカの技術研修生として日本で有機農業を学んだ人たちがミミズ堆肥を軸にした有機農法を普及している。(日本から帰国した研修生たちが同窓会を組織し、ボランティアで地域の農家を指導している∥OTTAA)。

 化学肥料多投の伝統的農法では、収穫後の土壌は酸化が進行し、見た目で褪せていて、「黒」が薄くなっている。肥料が足りないと見て、肥料を増量し、土壌の劣化、環境の悪化に歯止めがかからなくなっている。そこで、ミミズ堆肥を活用し、有機農業に取り組んでいる。ミミズは農家に無償配布している。農薬も一切使用しない。①カラマンシ―(レモンのような酸っぱい果汁の出る果物)に唐辛子を混合させた液体散布、②ココナッツ酢にニンニク、ショウガ、唐辛子の粉末を混合させた液体散布、③各種ハーブ~バジル、ローズマリー、オレガノ、キンセンカ、レモングラス等の植樹、④ダイコン、ぺチャイ等虫の好むものを囮にした作付等を実施している。

 農家訪問した(10ha、うち水田2haの大規模)。1991年のピナツボ火山爆発による火山灰の影響で、当地にしかない希少生物・ハギキック(バナナの葉っぱに似ている)が壊滅的な被害を受けたが、ミミズ堆肥を施すことで再生したと言っていた。収量も増えたようだ。

 しかし、水田農業の場合、有機農業の生産性は低いようだ。伝統的農業の場合、3毛作が可能で、一期作で収量は1ha当たり籾4㌧(80俵×50kg)、年12㌧である。これに対し、有機農業の場合、2毛作で、一期作当たり籾3㌧(60俵×50kg)、年6㌧である。収量が2倍も違う。有機は伝統農法の半分である。ただし、有機のコメは2割高く売れる。また、有機はミミズ堆肥がサイクルに乗れば肥料代不要であり、資材コストが安く、付加価値生産性は半分という事はない。

 化成肥料を使う伝統的農法は土壌が劣化していると言われるものの、生産性を維持しており、しかも有機より2倍も収量が多い。土地生産性が低いと、小規模農家は興味を示さない可能性がある。土地生産性については研究の余地があるように思われる。近くのフィリピン大学農学部の研究所(ロスパニオス市)との連携もあるので、品種改良や栽培技術等の技術開発を期待したい。

 ルクバンでの有機農法の普及は、約100戸の農家が有機農法を採用しており、普及率は4%前後と推計されている。案外高い。水田の有機農法の生産性が高まれば、普及率はもっと高くなるのではないか。土地生産性が高まれば、特に小規模農家での普及率向上が期待できる。

 有機農業は、健康面、持続可能性と言う点に効用を見い出している。ケソン州の州都ルセーナ市で毎週金曜日に実施されている「オープン・マーケット」において、オイスカ・ルクバン研修センターや有機農家が販売している有機野菜の「美味しさ」「甘さ」が徐々に評判になってきているようだ。最近の「環境志向」「健康志向」は首都マニラから離れたケソン州においても広がっている。経団連自然保護基金の助成(2010~12年度)は効果があったようだ。


◇熱帯雨林の伐採と環境問題(ボルネオ島)

 今回の東南アジア視察はマレーシア・サラワク州(ボルネオ島)も訪問した。筆者は3年前(2013年)も同地同コースを訪問した。日本向けの木材輸出のため熱帯雨林を伐採し、またその跡地にアブラヤシを植えパームオイルを日本に輸出する。1人当たりGDP1万ドルと豊かな地域であるが、資源輸出立国であるため、環境破壊が問題になっていた。「日本国サラワク県」みたいなもので、日本のGDPに連動している。

 今回再び訪問して、パームオイルやし畑の再利用問題は解決の目途が立っていないことを知る。プランテーションの場合、アブラヤシは20年くらい採油すると生産性が低下するので、除草剤で枯らして、そのあと焼くのであるが、土壌収奪と土壌汚染のため、跡地は使えない。赤茶けた地肌のまま放棄されている。(農家の場合、油が取れなくなったら、そのまま放置する)。日本人移住者が「NPOボルネオ熱帯雨林再生プロジェクト」(酒井和枝理事長)を組織し、森林保護に取り組んでいるのが注目される。

 筆者は自然保護=知識集約型産業と規定したが、ここでは研究開発のための人材投入が少ないのではないか。クズネッツ環境曲線に沿って言えば、まだ経済社会の発展段階が低く、所得選好が強いためであろうか。日本の筑波の研究所ではアブラヤシの繊維版の再利用などを研究しているようであるが、まだ現地の実態は除草剤で枯らす方法のみである。
 サラワク州の熱帯雨林問題については3年前の論文があるので、それを参照されたい。
(参考)拙稿「〈サラワク訪問記〉日本に直結した経済発展と環境問題」WEBみんかぶ2013年3月18日掲載。http://money.minkabu.jp/38321

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