topics
cat2
劇団シンデレラ物語 その2 ー素晴らしいレンジャーとの出会いから初上演までー
2015.11.6
劇団シンデレラ
このホームページのEco Voice コーナーは、日夜、現場第一線で自然保護や環境保全に頑張っておられる方々の「現場の生の声」をご紹介し、これからのいろいろな組織や団体との交流や連携の発展につながることを期待して設置しているコーナーです。今回は「環境ミュージカル」(基金助成事業)を上演し、生物多様性保存にも貢献されている 「劇団シンデレラ」の座長の伊藤さんから3回シリーズでご寄稿いただいている2回目の記事です。
1回目の記事はこちらです。(経団連自然保護協議会)
劇団シンデレラホームページ → http://dozira.net
■「環境ミュージカル」はじめます!
北海道・知床は、劇団シンデレラが環境ミュージカルを始めることになった大きなきっかけの地です。私たちの心を大きく動かしたのは、当時「知床自然センター」に務めていた女性レンジャー・濱本真琴(はまもと・まこと)さんでした。1997年(平成9年)、家族旅行で訪れた時、知床の自然を案内してくれました。濱本さんは小柄な可愛らしいお嬢さんという感じでしたが、森に入ると足取りは力強く、自然や野生動物の魅力をたくさん伝えてくれました。
当時4歳だったフローレスともこ座長の長女・伊藤優衣歌(いとう・ゆいか、金城大学4年生)は「小さくて当時のこと全部を覚えてはいないけど、濱本さんが子どもの目線に合わせて、優しく説明してくれたことは、よく覚えています。中でも、『しれとこ100平方メートル運動』という言葉は、難しい言葉でしたけど、濱本さんが分かりやすく何度も説明してくれたので、しっかり心に刻まれましたね」
しれとこ100平方メートル運動は、開拓跡地の乱開発を防ごうと、イギリスのナショナル・トラスト運動に注目・参考にして、北海道斜里町が1977年に始めたキャンペーンです。土地の買い取りや植樹費用などにあたる金額8000円を一口として寄付を募るユニークな仕組みで、座長・フローレスともこも「開発がどんどん進む時代なのに、これほど自然を大切にしているんだ」と感動を覚えたそうです。【参考:『しれとこ100平方メートル運動』のウェブページhttp://100m2.shiretoko.or.jp/
濱本さんは、木の実を一緒に拾ったり、木に付いたクマの爪痕を教えてくれたり、自然の大切さ、自然の中で遊ぶ楽しさを十二分に伝えてくれました。
■レンジャーにスポットライトを!
レンジャー・濱本真琴さんの活動に共感したフローレスともこは「すばらしい活動をしているのに、レンジャーに日が当たらないのは悲しい。レンジャーの活動を応援できるような環境ミュージカルを作って、全国に『自然を大切にしよう』という輪を広げたい」と意気込み、台本を書き始めました。
しかし、なかなか台本を書く手が思うように動きませんでした。それまで、冒険や夢、ロマンをテーマにしたファンタジー劇を中心で書いてきたので、どのよう に書けばいいか頭を悩ませました。そんな時、筆を休めて、原点に立ち返ってじっくり考えました。「やはり子どもたちに楽しんでもらえる劇にしたい。そし て、晩ご飯の時に、『こんな楽しい劇を見たよ』と家族のだんらんを盛り上げたい」。4歳の長女・優 衣歌に目をやりながら、「この子のような小さな子どもたちが、笑顔になって、時には声を上げて笑ってくれるにはどうしたらいいか」。自分がこれまで取り組 んできたファンタジーミュージカル劇を振り返った時、アイデアが少しずつ浮かんできた。「動物をたくさん出したらおもしろいかも」「やはり歌と踊りはかわ いらしく。衣装も印象に残るようにきれいにしたいな」「怪獣を出したらびっくりしてくれるかな」――子どもたちが喜ぶ姿を想像しながら、物語を書いていく とだんだん筆がのりました。
■初の環境ミュージカル劇「ドジラの森の迷子たち」
主人公は、森の奥からやってきた元気一杯で、見た目はこわいけれど、とってもやさしい怪獣「ドジラ」。登場人物もかわいらしく食いしん坊の「さるのもん吉 くん」、足が速いだけじゃなくて勉強も得意な「トラのタイガーくん」、甘えん坊の泣き虫だけどとっても友達おもいの「ライオンのレオくん」、ひまわりの種 大好きなとっても可愛い「ハムスターのハムハムちゃん」とにぎやかだ。途中でブレーメンの音楽隊(犬、猫、ロバ、ニワトリ)、赤ずきんちゃんとオオカミと 思わず笑いがこぼれ登場人物ばかり。
ス トーリーが進むにつれて、動物たちは、たくさんの困難に遭遇します。ドジラが人間の捨てた空き缶を飲み込み大騒動。人間によってどんどん木が切り倒されて しまい、帰り道や家が分からなくなったリス。土砂崩れに襲われるバス・・・。子どもたちが自然に学べるように、動物たちのセリフの中に教訓を盛り込むよう に工夫されています。
「僕も空き缶を拾う。僕の大好きな森が汚れているのは嫌だから」「ドジラくんみたいにこれが空き缶って知らないで食べちゃう動物が、まだたくさんいると思うから」「じゃあさ、僕、立て看板たてる。『ゴミは、持ち帰りましょう』って」
自 然を守ろうというほかに、人として守るべきこともたくさんちりばめられているのが大きな特徴です。「パン屋のトラックを助けたら、ドーナツをもらえた。親 切って大事」「森の奥には怖いことが待っているかもしれない。でも、困っている友達を助けるために森へ行く」。お年寄りが重い荷物で困っていたら、手伝っ てあげて「お年寄りに親切にするって気持ちいいな」。おにぎりを分けて食べて「一緒に食べるとすっごーくおいしいよー」。フローレスともこは「劇を楽しみ ながら『見てくれたみんなが、良い子になってほしい』という願いを込めたんです」と振り返っていました。
■歌でももちろんアピール
中で好評だったのが【木がなくなったら】という曲です。歌詞も分かりやすく、メロディーも非常に頭に残ると言われています。
♪全員・・・木がなくなったら、私たち動物はどこへ行けばいいの?
♪しか・・・木がなくなったら
♪りす・・・木の実がなくなる
♪しか・・・木がなくなったら
♪きつね・・・木かげで休めない
♪しか・・・木がなくなったら
♪うさぎ・・・疲れて争いが起きる
♪しか・・・木がなくなったら
♪ふくろう・・・ 皆 笑顔がなくなる
♪全員・・・笑顔ですごせなくなる えがおで・・笑いありの演劇なので、このシリアスな曲がかかると、観客もぐっと引き込まれるそうです。そして、締めくくりには一人一人の出演者がメッセージを伝えます。
l 今日、僕らが植えた1本の木が
l あなたが植えた1本の木が
l 百年後には緑の森になります
l 困っている人にかけた、なにげない一言が
l 誰かの笑顔になります
l 夢や希望、やさしさになります
l 世界中の人や動物
l 自然そして地球
l 未来にいっぱい笑顔のある子供たち
l 大丈夫
l 100年後には緑でいっぱいになる
l 緑でいっぱいになる
l みんなが願えば
完成したのが初の環境ミュージカル劇「ドジラの森の迷子たち」。台本は41ページにわたる大作で、知床公演のほかにも約50回 のステージをこなし、劇団シンデレラが環境ミュージカル劇団として歩き出す「大きな一歩」となりました。フローレスともこ座長は「当時、真琴さんに出会わ なければ環境をテーマにしたミュージカルを書こうなんて絶対に思わなかった。今の劇団シンデレラは『環境』『自然』という言葉に支えられているので、真琴 さんがいなければ、もしかしたら劇団シンデレラは解散していたかも」と笑います。
この時に書き上げた台本は大きな宝物で、10年以上たった今でも、フローレスともこ座長のパソコンに大切に保存されています。
■受け継がれるシンデレラ・クオリティー
劇団シンデレラは結成当時、フローレスともこ座長の同級生らで作っていたので、20歳 代の女性が中心でした。その後、次々とメンバーが加入し、現在は約20人になりました。小・中・高校生の子どもが中心で中には幼稚園のメンバーもいるほど です。それでも、環境ミュージカルでは「自然を大切にする」「動植物と仲良く暮らす」といった難しい言葉も理解しないといけません。ニコニコかわいらしく 笑っているだけでは、劇中で伝えたい「環境」というテーマがぼやけてしまいます。出演者の年代層が若くなっても、劇の質(シンデレラ・クオリティー)を落 とさない秘密があります。
最も重要なことは、劇の舞台に実際に足を運び、現地の人から話をじっくり聞くことです。その土地で活動する自然保護団体をはじめ、環境ボランティア、レン ジャーの熱意に耳を傾け、疑問が湧いたらすぐに質問して、頭の中を整理します。演劇指導するときも「現地の人はどう言っていたの?」と問いかけ、劇団員の 独りよがりにならない専門家の視点をきちんと組み込んでいます。名古屋・藤前干潟などに足を運んだ倉知優衣ちゃん(小学2年)は、演劇ではテングザルやワ タリドリの役を務めていますが、現地で実際に自然と触れ合ったことで演技幅が広がったと自信を見せていました。「干潟ではごみ拾いをして、そこにいる生き 物たちが喜んでいると思いました。生き物が困っている気持ちも分かった」と笑顔で答えてくれました。
上演する時は、実際に話を聞いた人をゲストに招き、見てもらうようにしています。すると、「いいできだね」と褒めてもらえることも多く、劇団員全員の励みになっています。
■短い練習時間でも集中
現地に出向くこと以外にも、練習時間での工夫もあります。練習時間は毎週金曜日と土曜日の午後6時30分から午後9時 までの限られた時間のみ。この時間にいかに集中して練習するかが大事です。まずは発声練習からしっかりとやり、続いて演出家・ファンキー健一のアドバイス にじっくりと耳を傾けます。「自分のセリフや演技ではなくても、自分のことのようにしっかり聞く。代役を頼まれた時でもすぐにできるように」――そんな教 えをしています。ファンキー健一は、劇団員のお父さんのような存在で、子どもたちから「けんちゃん」と愛されています。でも、時には「これじゃ、お客さん に失礼な演技だ!もっとまじめに」と渇を入れられることもあります。いつもは優しいファンキー健一が厳しくすると、子どもたちはすぐにピシっと背筋が伸び ます。家族のような信頼関係を結んでいるからこそ、演劇の質も上がります。
そ して、練習の最後は、劇団員が車座になって反省会をします。小さな子どもたちもきちんと発言します。例えば、「お疲れさまでした。きょうは、あんまり声が 出せなかったので家で練習して、次の舞台ではしっかり出せるようにします」――といった感じです。この反省会で、小さな子どもから大人までが自分の演技を 見つめ直すきっかけになります。三輪涼子ちゃん(小学2年)も恥ずかしがり屋の性格だが、みんなの前ではしっかり意見が言えます。「きょう演じた役は、気持ちがこもっていないので、きちんと気持ちを込めてやりたい」
練習がない時も、演技力を高めようとDVDを配布しています。このDVDは、劇団シンデレラの舞台を保護者が撮影したオリジナルです。実際に自分たちの演技を見て、自分で悪いところを見つけ、ほかの出演者の良い演技を見習って、自分のものにしてもらおうという狙いです。
このような練習を重ねたおかげで、多くの人から評価される劇団に成長しつつあります。次回は、愛知万博、COP10、ESDなど環境の大きなイベント・会議にかかわった思いなどをつづります。
( 1回目の記事はこちらです。 )