会長挨拶

経団連自然保護協議会会長 西澤 敬二
地球環境は今、改善の兆しが見えず、より深刻な状況に進んでいます。科学的根拠に基づき、地球環境の健全性を示す「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」の最新の研究によれば、地球の安定とレジリエンスの維持に不可欠な9つの指標のうち、気候変動や生物多様性の喪失など、すでに6つの指標で安全域を超過していることが明らかになりました。中でも、生物多様性の喪失は、気候変動と並び、国際社会が直面する喫緊の課題としての認識が急速に高まっています。
WEF(世界経済フォーラム)の試算によると、世界のGDPの半分以上にあたる44兆ドルもの経済価値が自然資本に依存していると言われており、生物多様性の喪失がこのまま進行すれば、社会・経済システムは大きなダメージを受け、人類の存続を脅かす事態になりかねません。このように、あらゆる企業活動が自然資本に大きく依存し、同時に大きな影響を与えており、企業経営に自然資本の保全・再興を組み込むことは、必然であると言えます。
経団連自然保護協議会は、リオの地球サミットが開催された1992年に、「経団連地球環境憲章」の実践を担う組織として、経団連が主体となって設立されました。そして、1996年には世界最大の自然保護ネットワークであるIUCN(国際自然保護連合)に、経済団体として世界で初めて加盟しました。設立以来、企業への啓発・情報提供や国内外での提言を通じて、自然資本の保全・再興を推進するとともに、経団連自然保護基金を通じて、アジア・大洋州を中心とした国内外のNGO/NPOによる自然保護活動を支援し、その実績は、33年間で累計1,820件、総額約55億円にのぼります。
また、近年は、国際的なアドボカシー活動にも注力しており、2024年10月にコロンビアのカリで開催された生物多様性条約第16回締約国会議(CBD・COP16)などの機会を捉え、CBD(国連生物多様性条約事務局)やIUCN、UNEP(国連環境計画)、UNDP(国連開発計画)、WBCSD(持続可能な開発のための経済人会議)など、世界をリードする団体との対話を重ねてまいりました。そのなかで、日本経済界との連携強化を望む声や、日本企業に対する期待の高まりを実感しています。これは、会員企業の皆様の30年以上にわたる真摯な取組みが、国際的に高く評価されていることの証左であると確信しています。
今、日本経済界が取り組むべきことは、ネイチャーポジティブ経営を実践し、2030年までに、自然を回復・再興するという世界目標の達成に貢献すること、そして、それを自らの国際競争力の源泉とすることです。そのためには、各企業は責任ある主体として、多様なステークホルダーとの協働を通じてイノベーションを創出し、インパクトを最大化するとともに、率先して自然関連情報の開示に取り組むことが必要です。決して容易な道のりではありませんが、会員企業の皆様とともに、国際社会をリードする先駆的な取組みを着実に進めてまいりたいと考えております。
最後になりますが、経団連自然保護協議会は、これからも自然と共生する持続可能な社会の実現を目指して、国内外のステークホルダーとの対話や連携を進め、活動を展開してまいる所存です。より多くの日本企業の皆様が、ともに自然資本の保全・再興に取り組まれることを心より期待して、ご挨拶とさせていただきます。
2025年10月
経団連自然保護協議会会長
西澤 敬二